依存学会 第8回シンポジウム「ギャンブル依存研究の最前線」開催

NPO法人依存学推進協議会(西村周三理事長)は10月29日、東洋大学 白山キャンパス(東京都文京区)において第8回となるシンポジウム「ギャンブル依存研究の最前線」を開催した。事前対応にも機能する依存対策プログラムを開発する500ドットコム社・CEOの潘正明氏。IR法案を取りまとめ、今夏政府のIR公聴会で精力的に説明役を果たした内閣官房内閣審議官ギャンブル等依存症対策推進チームの中川真副チーム長を迎えた(※当初予定されていた岩屋毅議員(IR議連・幹事長)は欠席)。

同協議会の西村理事長は、2010年に発足以来、依存をテーマに活動してきたと主催者挨拶。「IRが審議される中で、ギャンブル依存がクローズアップした。依存を研究領域とする当協議会として、今回はこのテーマについて今後どう研究を深めていくのかを探りたい」と依存の科学的理解とその依存症予防・治療への意義を述べた。

基調講演では「ギャンブル依存症の脳画像研究と薬物治療の可能性」について、高橋英彦准教授(京都大学医学部精神科神経科)が担当。現代社会で人は、日常様々な判断を強いられている中、非合理判断の度合いなど、行き過ぎるとギャンブル依存のような精神・神経疾患に認められる意思決定障害が見られる。経済的あるいは社会的な意思決定をしている際の脳活動を調べる神経経済学の見地から、高橋准教授はこれまでの脳内依存メカニズム研究の成果を報告した。

続いて、「ギャンブル依存症対策におけるビッグデータの役割」について潘正明氏(500ドットコム社・CEO)が担当。オンラインカジノ等、IT企業の500ドットコム社の持つ約6000万人のビッグデータ(ユーザーデータ)を活用した「500.COM依存防止システム」を説明した。「基本防止策」「事前防止策」「利用時防止策」「事後ケア」をカバーする依存防止システムであり、今後日本における最先端のIR実現に寄与していきたいと、依存学会との共同研究に意欲を示した。

最後に「ギャンブル依存研究の現状と将来」と題してディスカッションを開催。高橋准教授、潘CEOに加えて、中川真氏(内閣官房内閣審議官/ギャンブル等依存症対策推進チーム・副チーム長)、谷岡一郎学長(大阪商業大学・NPO 法人依存学推進協議会・監事)を迎え、船橋新太郎副理事長(NPO 法人依存学推進協議会/京都大学 名誉教授)のコーディネーターで進行した。その中で、中川氏は日本にあるギャンブル等依存問題について、政府はどう対応するかについて課題と経緯(論点整理と強化)を報告。中川氏は論点整理の一環として、「ゲーミングサービスを消費者が健全に消費できていないところから生じているのではないか。その一環として消費者行政(教育)において、消費生活センター(全国約800か所)の拡充を目指している」と包括的な対応含め、「ギャンブル等依存症の方を減らすという表現ではなく、不幸な状況を国から無くすまで対策を強化し、不断に取り組みを見直していく(官房長官の言葉)」とした。潘CEOは、「日本型IRはこれまでの伝統的なカジノではなく、全く新しい発想のもと、次世代の全く新しいIRを実現して欲しい」とIT・AIを駆使した次世代IRを提唱した。「現在、ギャンブリング障害に最も有効とされているものとして、自己排除プログラム(家族申告含)と言われている。500ドットコム社の事前防止のプログラムも興味深い」(谷岡氏)。「医療の現場としては、まだまだ研究は進んでおらず、手探りの状態。“エビデンス”(科学的根拠)のある治療というものが大切」(高橋准教授)。「現在、依存問題をどう防止していくか、入場制限、入場料徴収という検討がある。入場料と依存症との相関について証明されたものではない。しかし、入場制限のデータ化が促され、依存症対策費という名目の入場料として位置付けている。自己排除プログラム、従業員教育の義務付け等防止プログラムは重要。それは現在ある公営競技、パチンコにも波及させていく事が必要と考えている」と、中川氏は政府の方向を述べた。ビッグデータの活用についてはまだ未検討(個人情報の保護の観点では法的には難しい課題)の領域とした。

今後のギャンブル依存研究のあり方については、「依存問題について、見て見ぬふりから、見える化に変わっていく事は望ましい」(谷岡学長)。「ギャンブル依存について正しく社会に理解してもらう事。パチンコののめり込みが諸外国にない深刻な状況であるなら、時間がかかるかもしれないが、問題を無くしていくのが王道と思う」(中川氏)。「ギャンブル依存はカジノができたからとか、そういう簡単なロジックではないと思う。これを機会に研究が進む事が大切」(潘CEO)。「のめり込み(依存)はパチンコが多かったが、最近、スマホ片手に公営競技のネット投票による医療相談を診るようになった。その面では事前防止プログラムは有効と思った」(高橋准教授)。「今後、IRがある地域にできるでしょうが、その地域の依存関係の実地調査というものを継続してぜひ実施して欲しい」(船橋副理事長)。

参加のカジノ関係者からは、「日本のIR実現に、依存問題を無視できない。IRができて5年10年経って、出来てよかったと国民に認知される事だと思う。日本のカジノは、新たなグローバルスタンダードを発信して欲しい」と要望。IR実施法案の進捗についての質問は、「解散総選挙により、国会提出されていた依存症対策基本法案は廃案となった。まずは依存症対策基本法案が成立し、IR実施法案の提出、審議という流れになるのではないだろうか」(中川氏)と国会運営によるとした。また、ギャンブル依存についての情報が乏しいという指摘には、「研究データをお互いにチェックし合えるような文化がない事、厚労省の再調査のデータが発表されても、誇張したデータしか報道しない一部マスコミの体質など、 日本ももっと成熟していって欲しい」(谷岡学長)など、活発に意見が出された。